2021年12月26日日曜日

何年かに1本くらい、親友の数学者の土谷洋平さんと共著で競馬関連の研究論文を書いているのですが、久々の論文がこのほど Journal of Gambling Business and Economics で出版されました!


我ながらとても面白い内容なので、研究背景を解説したいと思います。

「みんな」の勝敗予測能力は驚くほど高い

競馬、競輪、競艇などのpari-mutuel方式の競技はとても興味深いです。(以後、簡単のため競馬の用語で説明します。)pari-mutuel方式の競技である競馬は、勝ち馬券を買った人が、全体の売上を山分けします。みんなが勝つだろうと思った馬の馬券は売れるので、買ったときの取り分は少なくなり、人気のない馬券は取り分が多くなります。驚異的なのは、大体の場合において、「みんな」の集合知的な勝敗予想能力はとても正しくて、たとえば掛金が2倍になるような馬券は統計的にだいたい50%の確率で勝ち、掛金が3倍になるような馬券は統計的にだいたい1/3の確率で勝ちます。つまり勝率と取り分の積、「期待値」はすべての馬券でおおむね1になるのです。ニンゲンの力、すごくないですか?

効率的市場仮説

株式市場などの世界では、「お買得」な投資対象があれば買われ、「売り得」な投資対象は売られて、利ざやは結局ゼロになり、一般人が儲けようとしても儲からない状況となっていると言われており、この言説を「効率的(efficient)市場仮説」と呼びます。


売り買い自由な株式市場と違い、競馬はレース開始時までにプレイヤーができるのは馬券を買うことだけです。そのような非対称性がある中で、それでもすべての馬券の期待値が1になっているなら、これが効率的(efficient)であるということを表しており、興味深いことですね。
これについて、実際の競馬の世界は、efficientとまでは言えませんが、weak efficientである、と言われています。この概念を次に説明します。

控除率、weak efficientとFLバイアス

先程は競馬は期待値が1と言いましたが、それは実は説明のための嘘で、胴元の取り分を考慮していませんでした。実際には、売上から胴元が規定の割合でピンはねし、残りを勝ち馬券購入者で山分けしています。この規定の割合を控除率とよび、日本中央競馬だと25%です。
控除率がαであるとしたとき、競馬の期待値は、efficientな状況なら1ではなく(1-α)となります。実は競馬に興じている「みんな」は、律儀に勝率と取り分の積が1ではなく1-αになる基準で「お買得」な馬券を見出し、そこにお金をつぎ込んで、そして総体としてはお金を順調に失います。(期待値が1未満ということは、続けていればそのギャンブルで負けるということです。そしてすべてのまともな公営ギャンブルは、期待値が1未満です。)
簡単な言葉で言い直すと、「人々は、わざわざギャンブルで損するラインである期待値1-αを基準として、律儀な精度で馬券の買われ具合を調整している」ということなのです。

さすがに律儀になり切れないのか、実際の競馬シーンではFLバイアス、逆FLバイアスという状況が発生します。馬券を「本命(favorite)」と「大穴(longshot)」に分けると、本命があまり売れずお買い得になり、大穴が売れすぎて買い損になる状況をFavorite-Longshotバイアス(FLバイアス)と言います。逆の状況もあって、本命が売れすぎて買い損になり、大穴があまり売れずお買い得になるのが逆FLバイアスです。これらのバイアスが世界の競馬場から見いだされてきました。また、このようなバイアスがある状況でも、お買得馬券の期待値が1を超えることはありませんでした。

すべての馬券で期待値が1-αというわけではないものの、すべての馬券の期待値が1未満である、つまり「若干お買い得馬券があったとしても、その期待値が1以上になることはないので儲からない」という状況が実現しているこの状況をweak efficientであると呼びます。

ガチ勢 vs 余暇勢

「競馬のプレイヤーにはガチ勢と余暇勢の2種類がいて、ガチ勢は儲けを最大化するように、つまりお得馬券を買い尽くして利ざやを消滅させ、期待値1-αのefficiencyを実現する方向に「合理的」に振る舞うが、余暇勢がスリルや射幸心などから非合理的な行動をするため、そこにバイアスが生まれるのである。」これが過去の研究で、FLバイアスや逆FLバイアスの発生理由として示された言説でした。

今回我々が論文で示したのは、「数理シミュレーションしてみたら、プレイヤー全員がガチ勢でも、バイアスが生まれちゃったよ。バイアスは余暇勢が原因で生じる説って、間違ってるかもね。」ということを示したということです。仮にこれが正しいとすると、合理的であろうとする人々のミクロな行動の集積によって、マクロでみると逆に非合理的な現象が生じてしまうということですから、なかなか衝撃的です。さらに我々のシミュレーションでは、「どのくらいガチ勢と余暇勢をブレンドしたときに、最もバイアスが生じにくいか」の検証も行っています。もしかしたら合理性追求のガチ勢の陰で、競馬の律儀なefficiencyの実現に向けて一役買っているのは、馬を愛し、絶叫し涙しハズレ馬券を舞い散らせている、競馬場中継映像でよく見るあの人たちなのかもしれません。

土谷さん、論文執筆と論文投稿を粘り強く続けてくれて、どうもありがとう。



2020年5月14日木曜日

toio、かわいいぞ

アメリカにいる間はあまり日本発のガジェットが買えなかったので、帰国後にさっそくいくつか購入しました。toioもその一つです。
以前から存在は知っていたのですが、あまり使い所にピンと来てなくて、子供向けのインテリジェントな知育玩具かな、くらいの気持ちでスルーしていました。

toio公式ウェブサイト

しかしswitchscienceさんが開発者向けの商品をラインナップし始めたことで、認識を改めました。toioはMakerに無限の可能性を提供してくれるガジェットですね!webmoが好きで使い倒していた私が買わない手はない!

toioは開発ライブラリが充実しているし、絶対座標が取れる、絶対座標への移動が簡単にできる、そして何よりもロボット自身が無機質なデザインでレゴと接続でき、「ガワをデザインすることではじめて完成する」ことを前提としている点に感動しました。

↑かわいいですね。

↑こういう群制御ができるのがたのしいところ。かわいい。


レゴのようなブロックをつかったプロトタイピングは私の常套手段です。たとえばこういうやつを以前作りました:


toioをいじってみてすぐ気づいたのは、「これはルンバを使って家具を可動にしてインテリジェントにする創作」のコンパクト版だな、ということです。
お掃除ロボットルンバはSDKが公開されており、研究者たちの間で、これを「もはや掃除機能を使わせず、単なる力仕事の担い手として使役する」という荒業に出ることが流行りました。


↑こういうやつです。テーブルトップディスプレイを可動にしたり、机を可動にしたり・・・

うちの研究室でも、子どもがテレビやタブレットに近づきすぎる問題を解決するため、「近づくと顔検出して、自ら逃げて距離を取ろうとするテレビ/ディスプレイ」というものを開発し、gugenコンテストで出展しました。この装置の土台として、移動を担っているのがルンバです。
https://gugen.jp/entry2017/2017-039
(動画リンク切れです)

オンライン講義準備等で忙しいので、数分でできるものを・・と思い、まずほぼノーコーディングで、「スマホを載せて移動させながら撮影する台」というものを作ってみました。「ドリー撮影」って言うんですかね。素敵な映像が撮れそうです。



ルンバよりも大幅に小型化した「家の中にある既存の動かないものに、可動性を付与する部品」であるtoio。そう捉えたとき、何ができるだろうかと考えると、アイディアが広がると思います。
たとえば食卓の上で食器を動かして、子どもを楽しませたりするのはどうでしょう。


#toio #おうちでロボット開発


2016年12月20日火曜日

Mashup Awards 2016 最優秀賞受賞した!

12/17に開催されたMashup Awards 2016。

つ い に 最 優 秀 賞 い た だ き ま し た !!!

さすがにこれは嬉しい。ウェーイ!
100万円の巨大な目録を持ってJRで帰宅するのは得難いスリリングな経験でした。
https://www.facebook.com/qurihara/posts/1216648421748946
翌日、どっと気が抜けて、昨今の疲れで寝込んでしまい、感想書くのがおそくなりました。
以下、壮大な自分語りですが、まあいいですよね。今回は。

当日の様子とかは、私が寝込んでいる間に湯村さんがすばらしくレポートしてくださっているのでご参照ください。

特にこの会場の「円形ステージ」はすごく刺激的で、すごく新鮮でした。
次々に登壇する凄腕プレゼンターを目の当たりして、なるほどこれは異種格闘技戦だと感じました。
特にギャル電がすごかったです。

私は今年、3件の応募をしました。
1年の後半は仕事が忙しいので、年初から少しずつ夏にかけて手がけたものです。

今年の私の挑戦テーマは、MAの苦手な審査基準である「デザイン」に対するハックでした。
”どこまで「デザイン」をミニマルにできるか。「借景」をモチーフに挑みます!”

"MashupAwardsの審査基準は、アイデア(独自性、新規性、優れた着眼点、発展可能性)、完成度(実用性、ユーザビリティ、エンタテインメント性)、デザイン(芸術性、優れた表現技法)です。"

私の作品はものすごくアイディア偏重であり、実装の加減によりコンパクトな完成度の高さをなんとか実現し、プレゼンで押し切る、というのが常套手段なのですが、さすがに決勝戦となると、プロデザイナーが完成度とデザインに徹底的なチューニングをかけてくるチームがごろごろ出てくるので、デザイナーがチームメンバーにいない私にとって、デザイン問題はもはや死活問題でした。

(1)自前グラフィックデザインを切り詰めて最小化する。
(2)そもそも既存コンテンツの組み合わせこそが本質であるような作品にすることにより視覚的な美的センスを補う。
(3)グラフィックデザイン以外のデザインの世界観を新しく提示し強調する。

3つの作品について、上記のような戦略を駆使して挑みました。
特に、今回何かと話題に出していただいた「2FF:とても速く見られるYouTubeプレイヤー」については、野心的にもグラフィックデザインの大本営(と勝手に私が思っている)である「インタラクティブデザイン部門」に応募しました。

それはこの部門の募集要項に、
"課題解決よりも、作品に触れた人の心を揺さぶり、クリエイティビティを触発する、アートとテクノロジーが高い次元で融合された「体験」を提示する作品を募集します。PCやスマートフォンなどのディスプレイを中心としたソフトウェア的な表現に留まらず、独自に開発したハードウェアを用いた表現や、体験する人の五感を刺激することで行動を誘発し、様々な感覚や感情を抱かせる「身体性」を伴った作品、また、社会の「課題」を発見し、問題提起するような作品を歓迎します。"

とあったからです。
問題提起するような作品!!!
日頃「物議を醸すシステム開発を得意とする」を標榜している私にとって、これは挑戦に値すると思いました。
ありがたいことにインタラクティブデザイン部門のファイナリストに選出していただき、「時間のデザインという全く新しいデザインの課題に挑んでいる」とご講評いただきました。事務局のまなみんさんにも個人的にお引き立ていただき、「まなみん賞」を受賞しました。(商品:スマホの黒電話受話器、レッドブル、リポビタンD、まなみんさん著書の詰め合わせ)

つまり何が言いたいかというと、「オシャレグラフィックデザインができなくてもMAは戦えたよ!」ということです。これで勇気づけられる方がいらっしゃれば幸いです。

さて、デザインに対する挑戦とは別に、今年のもう一つの挑戦は「セカンドステージ」でした。常連の方や事務局の方が口々におっしゃるのは、「セカンドステージが一番盛り上がる」ということ。確かにその通りでした。圧巻のプレゼンバトルは大変疲労困憊しましたが、あの雰囲気を体験できたのは今年の大きな収穫です。

さらにもう一つの挑戦、「映像と気軽にmashupできることをどう示すか」についても語らせてください。
セカンドステージにおいて、私は大変幸運でした。というのも発表順が一番最後ということでなかなか気分的には安らげなかったのですが、次々に発表者がPPAPネタを仕込んでくるのを目の当たりにして、もうこれはトリとしてwebmoを用いたPPAP mashupを即席でやる以外ありえないという天啓だ、と奮い立ちました。

そしてファイナルステージです。無線ネットワークが安定せず、ファイナリストの皆さんだいぶ苦労しましたよね。
私もwifiを用いるwebmoはもうダメだと諦め、何か別の形で映像とのmashupを表現できないかと頭をフル回転し、会場内をうろつきながら使えそうなモノをなんでもいいから探していました。
そこで椅子を即席のクリッカーにすることを思いつき、円形ステージのプレゼンの演出と組み合わせて実施してみました。(もう一つ、おもむろに靴を脱ぐと靴がクリッカーになっていて「クツリッカーです」っていうのも考えて、最後までどっちにするか悩みました。)

審査員の久下さんには「一人MashupAwardsですね」と大変うれしいご講評をいただきましたが、そうです、私、決勝当日もMashupしてたんです〜!!と心では思ってました。

久下さんだけでなく、審査員の皆様には本当に示唆に富むご講評をいただきました。すべてご紹介したいのですが、まずはもうお一方だけ。私がぎょっとしたのは、藤川真一さんのご講評です。

あの5分の私のプレゼンで、私がsrt.jsに込めている思いと哲学をここまで推理、展開されてしまうのか!と衝撃をうけました。
そうなんです。srt.jsっていうのは、言ってみればAdobe Flash的な世界観の現代的な焼き直しなんですよね。今は下火になっている「タイムラインにそってプログラムを記述する」というスタイルは、IoT的な流行と、受動的なコンテンツが市民権をもってきた現代において、もう一度考えるに値するパラダイムだと思うんです。
(くわしくは http://www.unryu.org/home/srtjs の「歴史的経緯」のところに書いています)
それを一瞬で看破され、評価していただきました。大変恐れ入りました。



さて、実は今回のMashupAwards, 個人的にはもう一つの戦いがあったのです。
それはCIVICTECH部門優勝の「ディスレクシアの人のための字幕読み上げ機能付きYouTubeプレイヤー」の應武さん(ウチの大学院生)との師弟対決です!

昨年は「コミュ障のためのメガネ」の萩原さんと師弟対決ニアミスだったねと笑って流していたのですが、こんなにも早くその日が来てしまうとは。彼女のプレゼンはとても落ち着いていて、質疑もしっかりしており、とても誇らしく思いました。
「よしオレもやってやるぜ!」というような励みになりました。
その結果、情け容赦なく弟子をねじふせての優勝となりました。大人気なくてすみません。まあ、手を抜くようなものでもないですよね。こういうのって・・・
(私が彼女に負けたらそれはそれで、私はとても嬉しかっただろうなと思います。)

ちなみにもう1件、ロボットとともに登壇することで発表者を助けるプレゼンシステムで、また別の院生の橋本さんが「HOYAサービス賞」を受賞されました。おめでとうございます。

これからも学生にはどんどんMashup Awardsに出すようpushしていこうと思います。

とりとめもないのですが、書きたいことが多すぎてまとめることが困難です。全部書きつくすよりは、書いたところから公開しようと思い、まずこのへんでやめておきます。

おまけ:
今年の懇親会では、個人が賞を授与できるということで、「消極性デザイン賞」を創設し、「SHY」というストレートな名前の学生グループの作品にお送りしました。賞品はもちろん、「消極性デザイン宣言」です!


リンク:
昨年MAについての私の感想はこちらです: https://www.facebook.com/qurihara/posts/917608148319643

2FFで高速鑑賞するファイナルバトル動画:






2016年10月24日月曜日

本に教えられたこと 〜「消極性デザイン宣言」発売にあたり〜


今日、ついに著書「消極性デザイン宣言」が発売されました。
本の内容について、消極性研究会について、そして本を書くことについて、思ったことを書きます。

【本の内容について】

情報システムデザインを主に扱いましたが、なるべく専門知識がなくても楽しめるよう、工夫しました。
各章ではそれぞれ、西田さん、濱崎さん、簗瀬さん、渡邊さんの色濃い「味」が出ています。読んでいて唸ります。素晴らしい!
そして各章末に「シャイ子とレイ子」という茶番劇があるのですが、著者が読んでも笑ってしまいます★

「シャイ子とレイ子」を含め、イラストは小野ほりでぃ先生にお願いしました!もともと本の構想段階から、小野ほりでぃさん的なテイストをかなり意識しており、執筆にあたりダメ元で依頼したらOKをいただけてしまったのです!


【消極性研究会について】

書籍は本当に「結晶化したもの」であって、その土台となった5人の議論は膨大で、とても深い内容だったと思います。
その結果として、ちょっと言いすぎかもしれないんですが、消極性研究について、我々5人だけ世の中でだいぶ先に(後ろに?)進んでしまいました!
なかなか不遜な物言いで恐縮です。
しかし以下のような経験をするようになりました。

  • 「こういう時はこうデザインすればシャイな人に優しいだろう」という提案が、場当たり的にではなく今回本にまとめたデザイン原理にもとづいてわりとスルッと語れるようになった。
  • 普通の学会に出ていて、消極性に関係しそうな話題について、「これは当然こうすべきだろう」もしくは「論点はこのへんだろう」という議論が、著者の5人の間ではほぼ自明に導かれ理解されるのに対し、それ以外の方々に直感的に理解されない場合が出てきた。いわゆる「私たちの間では当たり前すぎて議論するまでもないこと」が蓄積されすぎて、他の研究者と意図せず差別化されてきてしまった。

これが研究会(Special Interest Group)というものか、と実感しました。その分野を特別に考え、特殊な知識体系を共有する集団。もちろんなんでも一枚岩というわけではありませんけど。たとえばHCI系の研究者は「道具やシステムが使えないのは設計が悪い」ということをわりと共有してますよね。でもこれは、別の業界で話すと驚かれたりします。たとえば私がおつきあいある範囲ですと、教育現場の教師の方々は、IT機器が使えないことを「自分のスキル不足のせい」「学習時間をとれないせい」という風にまず考えてしまったりします。そうような「ギョーカイの差」を感じる「ギョーカイ」的なものが、消極性研究会に芽吹こうとしているのです。

もちろん、いわゆる「ギョーカイ用語」的なもので煙に巻いて、偉そうなことを言おうと思っているわけではありません。ああ、我々はだいぶ深掘りしてしまったんだな、深掘りした分、皆さんに丁寧に伝えて理解してもらわないとな、そして理解してほしいな、という気持ちで決意を新たにしています。


【本を書くことについて】

今回、5人で本が書けて良かったです。意見調整やスケジュール調整のコストはなかなかものでしたが、それでも書く分量が1/5なのはどれだけ心の救いになったことか。「一人で書くならこの5倍か・・・」という途方もない絶望感を何度も味わいました。

本が発売されると、「売れてほしいな」と思います。でもそれは儲けたいとかそういうことではなくて(実際のところ印税は労働に全然見合いません。5人だし。)、この本の企画に価値を見出してくれて、ここまで私たちを連れてきてくれた方々に報いたいという気持ちのカタマリです。

ということで、皆様のご支援よろしくお願いします!

書籍紹介とamazonサイト:

また発売記念イベントを11/4に渋谷MIXI本社で行います。仕事帰りにお立ち寄りください。無料です!

2016年8月30日火曜日


第169回HCI研究会「消極性とインタラクション」の衝撃

HCI研究会に参加し,運営に関わりました.
(ちなみに開催地の源平荘は関門海峡のそば,ふぐ料理が最高においしい宿です.)

大変画期的だったのは,「これは消極性に関する学会じゃないの?」と錯覚するくらい,密度の濃い消極性研究の議論ができたことです.
研究会というのは,毎回テーマを決めて発表を募集するのですが,そこまでテーマに寄せてわざわざ研究する人も少ないので,往々にして形骸化しがち(つまりテーマに密接に関わった研究が集まりにくい)なのですが,なんと初日の最初の3セッション8発表が消極性にダイレクトに関わるものでした.それを象徴するように,「消極性」を冠するセッションタイトルがついたのです!(これもとてもめずらしいことなのです.)
【セッション1:消極的な人】
【セッション2:消極的なシステム】
【セッション3:コミュニティ内の消極的な人】

また,夜の特別セッションにおいても消極性研究会が企画進行を努め,盛況でした.
それぞれの研究発表について,簡単な紹介をしたいと思います.★は私の感想です;

【セッション1:消極的な人】

(1) 大人数コミュニケーションへの参加を促すチーム対戦型貢献度可視化手法の提案
西田 健志(神戸大学)

人が集団で議論するときなどに発言量などを計測して個人の活動度合いや集団への貢献度を可視化する研究はたくさんある.しかしそれは集団といっても小集団である.たとえば学会での議論のような100人規模になったとき,どのように可視化すればモチベーションを保ちつつ,消極的な人も支援できるかを検討した.その際,オンラインゲームでよく用いられている,ユーザを少ない数の「チーム」に分けて貢献を可視化する方法が良いのではないか,という仮説が検討された.★ポケモンのチーム分けのような感じでWISSでチャットしたい.

(2) 消極的なメンバー間でも利用できるグループ休憩自動提案システム
鏑木 寛史(筑波大学), 神場 知成(日本電気株式会社), 村上 隆浩(ビッグローブ株式会社), 嵯峨 智(筑波大学), 田中 二郎(筑波大学)

集団で作業している時,「いま休憩したいけど,みんな頑張ってるし・・」という気持ちで休憩提案をためらい,実は他の人もそう思っているのに休憩が実現しないことがよくある.これを防ぐために生体情報から休憩すべきタイミングを自動検出し,過半数のメンバーが休憩必要状態になったときにシステムが休憩を提案するシステムを構築した.★生体情報から休憩タイミングを判断するだけでも相当難しいから,認識技術をつかわずユーザによる手入力にして,私どもの咎責嫌悪の研究のように人工知能を偽装して通知するとよいと思った.

(3)リアクティブな学習者を対象とした学習支援システムのデザイン
三浦 元喜(九州工業大学)

これまで著者が大学教育のうえで開発・運用した複数の学習支援システムについて,学習者の消極性に注目した場合にどのように問題があったかを検討した.★消極性を学習理論や心理学の観点から整理しており,参考になる点が多かった.

【セッション2:消極的なシステム】

(4)Ad-vice: スマホ広告を装って伝えにくいことを伝えるシステムの提案
浅山 広大(神戸大学), 西田 健志(神戸大学)

「鼻毛が出ている」のように,本人に伝えにくいメッセージを伝えるために,スマホサイトの広告バナーに偽装して伝える方法の提案と検証.★広告に偽装するなら広告業界で使われているあらゆるノウハウや広告の効率に関する知見を総動員して徹底的にやるとよいと思った.

(5)ユーザに気づかせることなく書写技能を向上させる手法の提案
久保田 夏美(明治大学), 新納 真次郎(明治大学), 中村 聡史(明治大学), 鈴木 正明(明治大学), 小松 孝徳(明治大学)

タイトルの通り.★内発的動機づけ,外発的動機付け,無意識,この辺のキーワードが重要な,とてもおもしろいコンセプト.学習とかスキル獲得に関する新しいパラダイムを切り拓けような気がしました(もし教育研究分野で未提案なら.).

【セッション3:コミュニティ内の消極的な人】

(6)手書き文字に対する書き手識別と好感度に関する調査
斉藤 絢基(明治大学), 新納 真次郎(明治大学), 中村 聡史(明治大学), 鈴木 正明(明治大学), 小松 孝徳(明治大学)

自分の書く手書き文字に関する識別能力と愛着に関する研究.★応用そして,他人(の女の子)の筆跡と自分の筆跡をブレンドすると愛着が・・のような変態的ビジョンがちょっとおもしろかった.

(7)Sharetter: Bluetooth電波と顔認識を利用した被写検知に基づく写真共有
高田 一真(明治大学), 渡邊 恵太(明治大学)

写真を取るという行為は勝手におこなわれてしまうが,取られた側にその写真の所有権がないのはおかしい.だから写真をとったら近接度とかお認識によって周囲にいる人に「映ったかも」という情報を通知し,写真を共有できるようにした.★私どもが昔やったSpeechProtectorと似たモチベーションの研究だと思いました.私どものほうが相当攻撃的ですが・・

(8)osa:家庭内タスクのコントロールと意思決定を担うチャットbotシステム
金子 翔麻(明治大学), 吉田 諒(三菱電機株式会社), 渡邊 恵太(明治大学)

IoT機器が家庭に普及してきて便利になってきているが,「草木に水をあげて」「ルンバのゴミを捨てて」のように,結局人力でやらなければならないタスクの通知が増えすぎて「誰が」そのタスクをやるのかの割り振りの心理負担が増える.そこで,「誰が」そのタスクをやるのかを自動決定し進捗管理するチャットボットを作った.★モチベーションに関する消極性に詳しい渡邉さんらしい,すごく納得の研究だったが,会場から機械に指示されることへの嫌悪とか人間の生身のコミュニケーションが失われる寂しさみたいなコメントが結構出たのが驚きだった.同じ感想を抱いた人は渡邉さんとじっくり話すと良いと思います.

【セッション4: 一般発表 タッチ】

(省略)

【特別企画】
「積極性とインタラクション supported by Diverse技術研究所&消極性研究会」

夜のセッションでは,逆に「積極性」にフォーカスし,Dating ScienceについてDiverse技術研究所から紹介し,それに対し消極性研究会がツッコミを入れるという構成で特別企画を開催しました.
Diverse技術研究所から,特製ビールの差し入れがありました.

・Dating Scienceを積極的に語ろう!
・Datingアプリを積極的にHackしよう!
・消極性研究会からの(ささやかな)逆襲

という構成です.以下が詳細です.

・Dating Scienceを積極的に語ろう!

Dating Scienceの歴史とHCIの関係,Diverse技研の取り組みについて紹介しました.★皆さんの専門分野からの貢献が期待される分野です.興味を持った方はぜひ一緒に研究しましょう!

・Datingアプリを積極的にHackしよう!

弊社製および他社製のDatingアプリを実際の操作とともに紹介し,どのようなHCI研究関連技術がキーテクノロジーになっているのか,男女ユーザに想定される積極性と消極性,インタフェースデザインの違いなどについて論じました.★今,普及しているものの,興味が無い方には触れる機会の少ないDatingアプリの実演は大変盛り上がりました.実演中の弊社社員に対し,アプリ内で女性からの「いいね」的なメッセージが偶然入り,会場がどよめきました!

・消極性研究会からの(ささやかな)逆襲

「そもそもモテるための努力というものは表層的すぎる.我々はもっと自分の実力を磨くための努力をすべきで,それがモテへと繋がるべきではないのだろうか.」という,西田さんからの話題提供がありました.

そして最後に私から,消極性研究会の書籍を執筆中であることがサプライズ告知されたのです!!
消極性のユニバーサルデザイン宣言(仮)
栗原一貴 (著, 西田健志 (著), 濱崎雅弘 (著), 渡邊恵太 (著), 簗瀬洋平 (著)

豪華メンバーによる,面白くてためになる本にすべく,鋭意執筆中です!乞うご期待!



・・というわけで,無理なく少しずつ続けてきている消極性研究会ですが,思想への共感なのか時代が産んだシンクロニシティなのか,その裾野が着実に広がっていることを実感してる今日このごろです.

2016年6月17日金曜日

Diverse技術研究所の上席研究員に着任しました。出会いの科学、Dating Scienceの研究に取り組みます。

このたび、Diverse技術研究所の上席研究員に着任しました。出会いの科学、Dating Scienceの研究に取り組みます。
Dating Scienceは実はいま最も注目している領域の一つです。これにはいくつかの観点があります。

まず、壮大なところから。よく、ほかの科学分野と比較して、情報科学はどう人類に貢献するのかと議論される事があります。
私が思うに、人類の出生率に影響を与えるという意味で、情報科学の一分野であるDating Scienceは飛び抜けて人類に貢献します。それも存亡に関わるレベルで。

次に、近年の潮流です。ビッグデータを統計分析し、必要なら機械学習する。それにもとづいて対象にふさわしい、よりよいアーキテクチャを設計する。便利なインタラクティブシステムを作る。これらは現在様々な領域で進んでいるプロセスです。しかし出会いに関しては、データは商業サービスを通じて豊富に集積されているのに、その後のこういった活動が手付かずの状態です。これはある意味驚きです。やるべきなのはまさに今です。

次に、理系女子大教員としての打算です。なんだかんだ言っても、色恋沙汰というのは女子大生の大きな関心事であることは否定できません。女性の視点で出会いを考えるというのは、実はDating Science領域でもホットな最先端領域だそうですから、女子大の特殊性を活かし、一つの名物研究領域とできるよう、学生とともに精進していきたいと思っています。

そして最後に、(これが一番大切ですが、)私自身は恋愛に奥手で若いころは失敗の連続でした。その頃の経験がSpeechJammerや消極性研究会の活動をはじめとする私の研究活動に色濃い影響を与えて今の私がいます。出会いというとチャラい第一印象がありますが、聞けば出会いビジネスもどうやって消極的な人の気持ちに寄り添うかが重要な課題だというではありませんか。これを研究し、消極的な人を含むより多くの人達により多くの幸せを提供できるなら、この上ない喜びです。

Dating Scienceとはいうものの、どうテクノロジーを活用して人々のコミュニケーションを円滑にするかが根底にあることは自明ですから、私の専門性を活かし、この分野に微力ながら貢献できればと思います。今後ともどうぞよろしくお願いします。



Diverse技術研究所:
メンバー: