2016年10月24日月曜日

本に教えられたこと 〜「消極性デザイン宣言」発売にあたり〜


今日、ついに著書「消極性デザイン宣言」が発売されました。
本の内容について、消極性研究会について、そして本を書くことについて、思ったことを書きます。

【本の内容について】

情報システムデザインを主に扱いましたが、なるべく専門知識がなくても楽しめるよう、工夫しました。
各章ではそれぞれ、西田さん、濱崎さん、簗瀬さん、渡邊さんの色濃い「味」が出ています。読んでいて唸ります。素晴らしい!
そして各章末に「シャイ子とレイ子」という茶番劇があるのですが、著者が読んでも笑ってしまいます★

「シャイ子とレイ子」を含め、イラストは小野ほりでぃ先生にお願いしました!もともと本の構想段階から、小野ほりでぃさん的なテイストをかなり意識しており、執筆にあたりダメ元で依頼したらOKをいただけてしまったのです!


【消極性研究会について】

書籍は本当に「結晶化したもの」であって、その土台となった5人の議論は膨大で、とても深い内容だったと思います。
その結果として、ちょっと言いすぎかもしれないんですが、消極性研究について、我々5人だけ世の中でだいぶ先に(後ろに?)進んでしまいました!
なかなか不遜な物言いで恐縮です。
しかし以下のような経験をするようになりました。

  • 「こういう時はこうデザインすればシャイな人に優しいだろう」という提案が、場当たり的にではなく今回本にまとめたデザイン原理にもとづいてわりとスルッと語れるようになった。
  • 普通の学会に出ていて、消極性に関係しそうな話題について、「これは当然こうすべきだろう」もしくは「論点はこのへんだろう」という議論が、著者の5人の間ではほぼ自明に導かれ理解されるのに対し、それ以外の方々に直感的に理解されない場合が出てきた。いわゆる「私たちの間では当たり前すぎて議論するまでもないこと」が蓄積されすぎて、他の研究者と意図せず差別化されてきてしまった。

これが研究会(Special Interest Group)というものか、と実感しました。その分野を特別に考え、特殊な知識体系を共有する集団。もちろんなんでも一枚岩というわけではありませんけど。たとえばHCI系の研究者は「道具やシステムが使えないのは設計が悪い」ということをわりと共有してますよね。でもこれは、別の業界で話すと驚かれたりします。たとえば私がおつきあいある範囲ですと、教育現場の教師の方々は、IT機器が使えないことを「自分のスキル不足のせい」「学習時間をとれないせい」という風にまず考えてしまったりします。そうような「ギョーカイの差」を感じる「ギョーカイ」的なものが、消極性研究会に芽吹こうとしているのです。

もちろん、いわゆる「ギョーカイ用語」的なもので煙に巻いて、偉そうなことを言おうと思っているわけではありません。ああ、我々はだいぶ深掘りしてしまったんだな、深掘りした分、皆さんに丁寧に伝えて理解してもらわないとな、そして理解してほしいな、という気持ちで決意を新たにしています。


【本を書くことについて】

今回、5人で本が書けて良かったです。意見調整やスケジュール調整のコストはなかなかものでしたが、それでも書く分量が1/5なのはどれだけ心の救いになったことか。「一人で書くならこの5倍か・・・」という途方もない絶望感を何度も味わいました。

本が発売されると、「売れてほしいな」と思います。でもそれは儲けたいとかそういうことではなくて(実際のところ印税は労働に全然見合いません。5人だし。)、この本の企画に価値を見出してくれて、ここまで私たちを連れてきてくれた方々に報いたいという気持ちのカタマリです。

ということで、皆様のご支援よろしくお願いします!

書籍紹介とamazonサイト:

また発売記念イベントを11/4に渋谷MIXI本社で行います。仕事帰りにお立ち寄りください。無料です!